部屋に戻ると、誰かの気配があった。

まさか、この司法の島で賊が入り込むことはないのだが。

身構えて寝室を覗くと、そこには見慣れた背中があった。

 

 

誘ってるのか?

 

 

「面倒くせェ…」

バサバサ

長官のところに報告に行き、ついでにコレを届けてほしいと言われた書類を団扇がわりに、ジャブラは廊下を進む。

届け先は…考えたくもない。

まったく、どうして自分と犬猿の仲のあの男に届けものをしなければならないのか。

全く、気が利かない。
まぁ、あの長官の気が利いていたら、それはそれで怖いのだけれど。

書類の届け先は、ウチのbP諜報部員宛だった。



ドンドン!

「おい、ルッチ!入るぞ!!」

些か乱暴なノックの後、ジャブラは目的の人物の部屋へと入った。

「ルッチ??」

鍵が開いていたので中に入ったのだが、どうやら部屋の主は留守らしい。

「マジかよォ…」

後で届けに来るも面倒だ。

何より、あの馬鹿猫のためにもう一度自分がココへ足を運ぶなんざ、ごめんだった。

「本当に居ねェのか?」

念のため、部屋中を見て回る。

これで見つけたら、絶対嵐脚くらわせてやる

そう思うのだが、どうやら本当に留守のようだった。

 

「やっぱ居ねェな…」」

こうなったら、デスクに置いて、トンズラしよう!

その結論に行き着いたジャブラの視界に、あるモノが入る。

「………」

それは、デカデカとしたウォーターベットだった。

見るからに高そうなのがよく分かる豪奢な作り。

何つー贅沢だよ…

別に、家具にはさほどのこだわりのないジャブラからしてみれば、信じられない散財。

もっとも、ルッチ曰く”この程度で驚くな”という買い物らしいのだが。

大体、こんなチャプチャプしてちゃ、寝れねェんじゃねーの??

単純な好奇心から、ジャブラは目の前のベットにそっと手を置いてみた。

 

タプタプッ!

「!?」

中の水が揺れ、弾力あるベットがポヨンと揺れる。

「………」

もう一度、今度はもっと強めに押してみる。

チャプン!

「!!!!」

中で水がうねり、やはりポヨンと心地よく揺れた。

面白ェ!!!

面白さの発見と感触の気持ちよさもあり、寝てみたら気持ちよさそうだな、と素直に思った。

いやいやいや、人のモンだろ、これ!!

そう、常識人のジャブラには、そんな非常識なマネはできない。

ベットの誘惑を跳ね除けるようにして頭を振った。

………と、


「何をしている」

「!?」


背後から、今一番聞きたくない、馴染みある声が聞こえた。

 

 

「る、る、る…るっち!?」

そう、自分の背後には音を立てずに戻ってきたこの部屋の主が居た。

「ジャブラ?」

「あ…のよ……ちょ、長官から頼まれたんだよ!ホラ!!」

慌てて長官から預かった書類をルッチの手に押し付けると、脱兎のごとく出口を目指す。


だが…

「待て」

そううまくはいかないもので、あっさりと捕まってしまう。

「コレは分かったが…なんで寝室にいるんだ?」

「いや…お前探してたら、何か…」

「?」

「気持ちよさそうだなァと思ってよォ…」

「………」

「分かっただろ!もう離せ……っ!?」

 

ボヨン…ッ!

言い終わる前に、目の前のベットに放り投げられる

ご丁寧にも、ジャブラの体の上に乗り上げて…。

 

「オマエ…誘ってるのか?」

「っ…!?」

耳元で低く囁かれると、ビクリと躯が震える。

「聞くのも愚問か…」

何やら自分一人で納得しながら、行為に及ぶ気まんまんのルッチ。

「違ェって、ただ、こいつの寝心地が気になっただけで…」

何とかルッチを思い止まらせようとしたのだが。

「ほう…それで、寝心地はどうだ?」

「へ…?そりゃいいケドよ…」

確かに、上からルッチに乗られていなければ最高の寝心地だろう。

ルッチはそれを聞くとニヤリと笑みを浮かべた。

 

「なら、朝まで堪能させてやる」

「な…ん……ぁっ!?」

 

そう言って、ルッチは抵抗するジャブラを攻略するのに集中を始める。
こうなっては、もう止めることなど不可能だ。

 

仕方ねェなァ…

このままルッチの思うようにさせるのは癪だけれど、仕方がない。

「無茶は…すんなよな」


聞き入れられるとは思わなかったが、それだけ言うと、ジャブラは諦めたようにルッチに抱きついた。





FIN





気をつけろ  ルッチは急に  止まれない ←本日の標語(豹語:笑)

ルッチ「……急にでなくても止まる気はない」(胸張)

ジャブラ「威張るな、この馬鹿猫がァァァァァ!!!!」(後頭部ビールビン殴打)

ルッチ「…痛い」(後頭部さすりさすり)

ジャブラ「ざけんな!たまには俺の言い分も聞け!」(机を叩いて抗議)

ルッチ「だが…ああも誘われては……な」(背中が「食べて」と言っていた)

ジャブラ「ふざけんな!沸いてんのか!!」(ジーザスと頭抱えモーション)

くずのは「まぁまぁ、どっちにしろ誘い受けなんだから」(手をパタパタ振って)

ジャブラ「てめぇらどっちも死んで来い!!」(中指立てて)

 

 

その頃の執務室

スパンダム「遅ェなー、ルッチ」(時計眺め)

カリファ「何でジャブラに届けさせた訳?長官」(ばかねぇ…)

スパンダム「へ……?」

カリファ「絶対本番始まってるわよ」(明日はジャブラは欠勤、と)

スパンダム「カリファ……おま……っそれセクハ……」(カタカタ振るえつつ)

カリファ「セクハラです!!」(眼鏡、クイ!!)

スパンダム「ええ、俺の方!?」

 

エニエスロビーは今日も仕事第一です。